「てんきや」気象予報士への道

#14: ロープを傘代わりにするには

昼ごはんを食べに行った帰りに雨が降ってきてしまい、傘が無いので仕方なく濡れながら歩いて帰ってきたのですが、そのときの雑談から。曰く、「ロープを頭の上でものすごい速さで振り回したら傘代わりになるよなあ?」

ロープを傘代わりにする方法の模式図。
理屈としては、こういうことです。雨滴がAからBまでロープの太さのぶんだけ落下するまでの間にロープを1回転させれば、雨滴はロープに弾き飛ばされるので傘代わりになるだろう、というわけです。この理論の真偽のほどはさておいて、そんなことが実現可能かどうかを考えてみましょう。

まず雨滴の落下速度 v ですが、重力加速度を g として mgh = ½mv² 、という単純な話ではありません。これは雨滴が空気中を落下する際の粘性抵抗…いわゆる空気抵抗が無視できなくなるためです。粘性抵抗の大きさは、雨滴の半径を r とすると、 F = 6πηrv という式で表されます(ここで η は粘性係数という、流体の性質により決まる定数)。この F が重力 mg と釣り合うときの v の値を求めればいいわけですが、面倒なので結果だけ書くと v = (2ρr²g)/(9η) となります(途中の式の導出は、「一般気象学」の4.4章を参照のこと。なお ρ は水の密度)。なんだかややこしい式ですが、r 以外はすべて定数なので、雨滴の落下速度は雨滴の半径の2乗に比例するということだけ覚えておけばとりあえずOKということで。

なお、ちゃんと「一般気象学」を参照した方はお気づきかと思いますが、r または v がある程度以上大きくなると、雨滴の落下速度は上記の式では表し切れなかったりします。これは粘性抵抗(rvに比例)に加えて慣性抵抗(r²v²に比例)が無視できなくなるため…らしいのですが、このあたりは専門外なのでとりあえずパスします。少なくとも「大きい(=重い)雨滴ほど落下速度が速い」というのは間違い無いはずです。

さて本題に戻ります。「一般気象学」によると、半径1mmの一般的な雨滴の落下速度は約7m/sです。仮にロープの太さを直径10mm(0.01m)とすると、雨滴が上図のAからBまで落下するのに要する時間は、0.01÷7=0.0014秒となります。この雨滴をロープで弾き飛ばすためには、0.0014秒でロープを1回転すれば良い、すなわち1秒間にロープを 1÷0.0014=700回転すれば良い、ということになります。

1秒間に700回転。なーんだ、と思うかも知れませんが、これはとんでもないスピードです。自動車のエンジンは1間に数千回転ですが、こちらは1分間に直すと42000回転ですから、手で回すのはちょっと大変です。そして、仮にロープの回転半径を30cm(0.3m)とすると、ロープの先端の速度は 2×π×0.3×700=1320m/s …平たく言うと、およそマッハ4ですから、周りの人に当たったらちょっと大変です。

というわけで結論。「ロープは傘の代わりにはなりません。」

(2003/11/11)
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