「てんきや」気象予報士への道

#19: 高波・高潮・津波の違い

今年は本当に台風の当たり年で、台風16号(チャバ)によって鹿児島では高波により灯台が根こそぎ流失、瀬戸内の地域では2mを超える高潮で床上浸水などの被害が出ました。また9月5日23時57分頃に東海道沖で発生したマグニチュード7.4の地震では津波警報が発令され、津波による被害こそほとんど無かったものの最大90cmの津波が観測されました。このように、高波・高潮・津波はいずれも海が引き起こす災害ですが、その原因や性質はずいぶん違います。

高波とは

波は海面上で風が吹くことで発生します。当然強い風が吹くほど高い波が発生するわけで、台風の接近した海域では場合によっては10mを超える高波が発生しますし、冬の日本海で波が荒いのもシベリア高気圧がもたらす強い季節風が原因です。

さて、海面がいちばん高いところと低いところの差が波の高さとなるわけですが、当然のことながら高い波もあれば低い波もあります。では天気予報などで発表される波の高さとは、どのような波の高さなのでしょうか。 最大値? 平均値? 実は「有義波高」という特別な値が用いられています。

有義波高の定義

一定時間において観測した波を高い順に並べて上位3分の1を選び、これらの波高を平均したものが有義波高。
たとえば一定時間に左図のように12個の波が来たとします。この12個を高い順に整列して、高いほうから3分の1(この例では4個)の波の高さを平均したものが有義波高となります。すべての波の高さの平均を取れば良さそうなものですが、このように計算することで目測で観測する波の高さに近い値になるのです。

有義波高は上位3分の1の波高の平均値ですから、これより高い波が来る可能性もあります。確率的には、1000回に1回は有義波高の2倍の高さの波が来る可能性があり、例えば天気予報で「波の高さは2m」と言っていた場合でも、数時間に1回か2回は4mの高波が押し寄せることがありますので、海のレジャーなどの際には充分注意する必要があります。また、風が波の原因になると書きましたが、好天で風が弱い地域でも遠くの高波が「うねり」として伝わってくることもありますので、海に遊びに行く際には必ず波浪に関する予報や注意報をチェックしてください。

高潮とは

低気圧による海面の吸い上げ

低気圧は海面を押す圧力が弱いため、周囲に比べて海面が高くなる。
高気圧、低気圧と普段なにげなく言っていますが、そもそも気圧とは空気が周囲を押す圧力の大きさのこと。海の上では空気が海面を押す圧力の大きさのことになりますから、右図のように気圧が高ければ海面は強く押され、逆に気圧が低いときには海面を押す力が弱いために水位が上がる(吸い上げられる)ことになります。吸い上げの効果は気圧1hPaあたり約1cm。例えば950hPaの台風の中心では、吸い上げ効果だけで通常より約50cmも潮位(海面の高さ)が上がることになります。加えて、風が強い場合には強風によって海水が岸に向かって吹き寄せられて、さらに潮位が高くなります。台風が来たときに高波と高潮が合わさって被害をもたらすのはこのためです。

高潮が被害を及ぼすかどうかに関わる大きな要因が潮の満ち引きです。満潮の時間帯でもともと潮位が高くなっているときに高潮でさらに海面が上昇すると、あっという間に海水が陸に押し寄せて被害を及ぼします。

潮の干満の原理

月の引力と、月-地球の公転運動の遠心力の差により、海面が地球の外側に引っ張られる。
潮の干満を引き起こす最大の要因は月の引力と遠心力。地球の中心(より正しくは、地球の重心)では引力と遠心力は釣り合っていますが、中心から離れた場所では引力と遠心力のバランスが微妙に崩れます。
 ■ 月の引力は、月に近い場所ほど強く、月から遠い場所ほど弱い。
 ■ 遠心力は、月に近い場所ほど弱く、月から遠い場所ほど強い。
という関係になりますので、左図のように、月に近い場所では月の引力が強いために海水が月のほうへ引っ張られて海面が上昇し、月から遠い場所では公転による遠心力が強いために海水が外側へ引っ張られてやはり潮位が上昇します。これが、満潮。逆に月と地球を結ぶ直線上から離れているときには海面を引っ張る力が働かないため満潮時に比べると潮位が下降します。これが干潮です。地球は1日1回自転していますから、基本的には満潮・干潮それぞれ1日2回めぐってくることになります。

(注)ただし月も地球の周りを公転しているため必ず2回ずつあるとは限りません。また地形や海流などの影響のため月の南中時刻と満潮時刻は必ずしも一致しません(むしろ、かなりズレがあります)。

大潮と小潮

月と太陽の引力が同一直線上で加わると大潮、直角に交わると小潮。
月に比べると影響力は小さいのですが、太陽も潮の干満に影響を及ぼします。地球と月と太陽が一直線上に並んだとき、月の引力/遠心力と太陽の引力/遠心力はそれぞれ足し合わされるため、満潮のときと干潮のときの潮位の差は大きくなります。これが大潮で、満月の頃(左図)と新月の頃が大潮にあたります。逆に、地球から見て太陽と月が90度ずれた位置関係にあるとき、月の引力/遠心力で引っ張られていない箇所が太陽の引力/遠心力で引っ張られるため、満潮のときと干潮のときの潮位の差は小さくなります。これが小潮で、上弦・下弦の月の頃が小潮にあたります。

というわけで、低気圧や台風が接近する時間帯と満潮の時間帯が重なると高潮の影響が大きくなり、これに大潮の時期が重なるとさらに潮位が高くなるわけで、先述の台風16号ではまさにこの条件が全て揃ってしまったために大きな被害が発生したわけです。

このほかに潮位に影響を及ぼす要因として海水温があげられます。水温が高くなると海水が膨張するため潮位が上昇します。このため夏場に潮位が高くなることがあるほか、黒潮などの暖水流が異常潮位の原因となることもあります。

津波とは

津波発生の模式図

震央で海底の地形が変形すると、地盤の動きが海面に伝わり四方八方に広がっていく。
海底で地震が発生して地盤が隆起したり沈降したりすると、地盤の動きに合わせて海面も上下します。この海面の動きが同心円状に広がっていくのが津波です。

高波や高潮と比べて恐ろしいのが津波の威力とスピードです。普通の波は海面近くの海水だけが風により動かされているのに対して、津波は海底から海面まで海全体が地盤変動により動かされて生じるため、波の持つエネルギーも大きくなります。また高潮は海面がじわじわと上昇するのに対して、津波は水深5000mの外洋ではジェット機並みの時速約800キロ、水深100mの場所でも時速100km以上の速さで伝搬します。例えば1960年に南米のチリ沖で発生したマグニチュード8.5の地震では、約15時間後にハワイ諸島で最大10m以上の、そして地球のほぼ真裏にあたる日本でも地震発生から約1日後に数メートルの津波が押し寄せ被害を及ぼしました。

波の測りかた

波の高さと潮位・津波の高さの違い

潮位・津波の高さは、個々の波の影響を除いて測定する。
「2mの波」と「2mの高潮」「2mの津波」では、その意味合いが大きく異なります。波の高さは上述のとおり個々の波の高低差を測定しているのに対して、潮位や津波の高さは個々の波の影響を取り除いて平滑化した水位(左図の紫色の点線)を測定しています。実際の験潮所では、左図のように海中から海水を引き込むことで波浪の影響を受けずに潮位を観測しています。

高波・高潮・津波、それぞれ性質は異なりますが、いずれも無闇に近づくと危険であることは共通しています。波浪や高潮の注意報・警報が出ているときは用もなく海岸に近づかない、そして津波の注意報・警報が出たときはとにかく高台へ逃げること、これが肝心です。

(2004/9/25)
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