朝晩が冷え込む季節になってきました。これから冬にかけて天気予報でよく聞く言葉が「放射冷却」。雲が無く天気の良い夜は冷え込むと意味合いですが、どのような仕組みで冷え込むのでしょうか? 放射とは熱の伝わり方の一つですが、熱の伝わり方には放射のほかに伝導や対流があります。今回は熱の伝わり方について考えてみましょう。 伝導とは伝導(conduction)とは、物質の内部で熱が伝わることです。 物質の熱エネルギーは物質内部の分子や電子の運動として考えることができます。高温の部分ほど分子や電子が激しく動き回っているわけですが、分子や電子どおしの衝突により高温部分の運動エネルギーが低温部分に移ることで熱が伝えられる…と考えることができます。 例えば鍋やフライパンを火にかけると直接加熱していない取っ手の部分まで熱くなるのは伝導により鍋底から熱が伝わってくるためです。また物質と物質が接している部分で熱が伝わる――例えば使い捨てカイロを握っていると暖かく感じる、お風呂のお湯が冷たい空気に接していると冷めてしまう――というのも伝導により熱が伝わっている例といえるでしょう。 対流とは
先ほどのお風呂のお湯の例で言えば、湯船にフタをしていないとお湯が冷めやすいというのは次のように説明できます。 もし対流が無ければ、お湯の熱が伝わるのは水面に接している部分の空気だけなので、お湯はそれほど冷めません。が、対流によりお湯によって温められた空気は上のほうに昇っていき、入れ替わりに冷たい空気が入ってきます。この入ってきた冷たい空気がお湯によって温められて上昇、また冷たい空気が入ってきて…という繰り返しによって、お湯がどんどん冷めていくわけです。
備考: なお気象学では垂直方向の大気の移動を対流と呼び、水平方向の大気の移動を移流(advection)と呼んで使い分けることが一般的です。
放射とは放射(または輻射; radiation)とは、物体が電磁波の形でエネルギーを放出することです。あらゆる物質がその温度に応じた電磁波を放射しています。あらゆる物質/物体と言いましたが、人間も例外ではありません。サーモグラフィーの画像を見たことがあると思いますが、あれは物体(あるいは人体)が放射している赤外線などの電磁波を可視化したものです。 ストーブやたき火が暖かく感じられるのは、これらが放射している電磁波(赤外線)を身体が吸収しているからです。ストーブに当たっているときに間に人が割り込んでくると暖かくなくなるのは、放射が遮られて吸収できなくなってしまうためです。 気象における伝導・対流・放射このように熱の伝わり方には伝導・対流・放射の3種類があるわけですが、これらはそれぞれ気象において重要な役割を果たしています。
備考: 大気は地面からの伝導により加熱されるだけでなく、太陽放射を吸収することによっても加熱されます。ただ大気に比べて地面のほうが温度が上がりやすいため、温度の高い地面から温度の低い大気へ伝導による熱の移動が起きるわけです。
で、放射冷却とは?お風呂が冷めるのは冷たい空気に触れているからですが、夜になると気温が下がるのは理由が違います。あらゆる物体が放射をしている、と書きましたが、地球や地球を取り囲む大気だって例外ではありません。昼間は太陽からの放射を吸収しているため地球からの放射の影響は顕在化しませんが、夜になると地球からの放射により熱が失われていきます。これが放射冷却で、失われた熱はどこへ行くかというと、宇宙の果てへ行ってしまいます。
雲というと「日差しを遮る」というイメージでとらえがちですが、「放射を遮る」と考えると、昼間は太陽からの放射を遮るので気温の上がり方が鈍くなる、逆に夜間は地球からの放射を遮るので気温の下がり方が鈍くなる、というわけです。
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