「てんきや」コラム

#33: 気候変動シミュレータに参加しよう

地球外知的生命体の探査を行うSETI@Home、暗号や数学の命題を解くdistributed.net、新薬の開発に向けて分子を解析するUnited Devices(UD)など、グリッド・コンピューティングによる様々なプロジェクトが多くの人の参加により進められています。グリッド・コンピューティングとは高価なスーパーコンピュータを使う代わりにパソコンなど一般的なコンピュータを多数使って計算処理を行うもので、能力がスーパーコンピュータの10000分の1しかないようなマシンでも10000台集まればスーパーコンピュータと同等の計算能力を実現できるだろう…という考え方のもと、インターネット等で参加者を募って実施されています。 前述の各プロジェクトでは多くの一般ユーザーが家庭のPCなどを使って解析に参加し、暗号解読や抗がん剤開発につながる物質の発見など多くの成果を収めています(地球外生命体はまだ見つかっていませんが)

このようなグリッド・コンピューティングの技術を使って地球温暖化などの気候変動を予測しようという分散シミュレーションが行われています。イギリスの研究機関が中心となって活動しているclimateprediction.netでは、約30000台(2005年1月末現在)のマシンによる分散シミュレーションが進められており、シミュレーションによって得られた結果は科学誌Natureにも掲載されました掲載内容(PDF)要旨和訳。 同じような地球温暖化のシミュレーションは気象庁気象研究所や東京大学気候システム研究センターなどでも行われていますが、これらの研究が世界でもトップクラスのスーパーコンピュータである地球シミュレータを使用しているのに対して、climateprediction.netでは同様のシミュレーションを普通のパソコンで実行できるのが大きな特徴。というわけで、私も実際に普通のパソコンでシミュレーションを試してみました。

シミュレータを走らせるまでの手順は次のとおり。

  1. ユーザー登録。Rule and PoliciesGetting Startedのページをひとしきり読んで納得したら、Create an accountのページのフォームに名前(ニックネームでも可)とメールアドレスを登録。届いたメールに載っているaccount IDを入力したら登録完了です。
  2. 動作環境の設定。登録完了後の画面でThis is my first BOINC projectを選択すると、シミュレータ用に使うディスク容量などの設定画面に移ります(シミュレータの動作にはSETI@Home等と同じBOINCが使われています)。マシンパワーに余裕があるなら設定はそのままでも構わないでしょう。
  3. インストール。BOINCのダウンロードページにはLinux版・Mac版・Windows版があるので、使用しているマシンに合ったものをダウンロード&インストールしましょう。
  4. シミュレータの設定。インストールしたBOINCを起動すると、project URLとaccount IDを聞いてきます。project URLはhttp://climateprediction.net/、account IDはメールに載っていたものを入力すればOK。自動的にシミュレーションのデータをダウンロードしてきて計算がはじまります。
あとは、コンピュータが他の仕事をしていない時間帯にひたすらシミュレーションが行われ、結果が出たらデータを送信して次のシミュレーションをダウンロードし実行する…という繰り返しです。いまこの原稿を書いているマシンでは、
  • 地上における降水閾値: 1×10-4[kg/m3]
  • 氷の融点におけるアルベド: 0.57
  • entrainment係数: 9
  • 氷のアルベド変化の温度範囲: 5[°C]
…等々、多くのパラメータがサーバから与えられてシミュレーションが行われています。シミュレータにより現在計算されている地球の気温や降水量、雲の分布などを見ることもできるほか、シミュレーションが完了した暁には与えられた条件によって地球の気候変化がどのように推移したかをグラフ等で見ることができます。

最後に、これを見てやってみようかなと思った方に注意事項をいくつか。

  • 説明はぜんぶ英語です。各国語のページもあるのですが、残念ながら日本語はまだありません。だれか翻訳してください。
  • かなりのマシンパワーが必要です。推奨環境は800MHz以上のCPUですが、CPUが速ければ速いほど早く結果が出ます。
  • かなり時間がかかります。1回のシミュレーションを完了するのに、G5-Macまたは2.8GHz-Pentium4で約3週間かかります。もちろん3週間ずっと電源を入れっぱなしにしておく必要はありませんが(パソコンを起動するたびに自動的にシミュレータも起動します)、いずれにせよ結果が出るまで相当気長に待つ必要があります。
  • 電気代がかかります。普通にネットサーフィンをしている時であればCPUはたいして仕事をしていませんが、このシミュレータはCPUの空き時間をフルに活用して計算を行いますので、同じ時間だけPCの電源を入れていたとしても電力を余分に消費するため結果的に電気代も余分にかかります。
  • 学校や職場のPCは使わないようにしましょう。家のパソコンであれば何をしようが自由ですが、学校や職場のマシンを勝手に目的外に使うとなにかと問題のもとになります。職場でSETI@Homeを動かしてクビになったという話もありますので、くれぐれも御注意を。
ちなみに、私がいま使っているのは4年ほど前に買ったノートパソコンなのですが、シミュレーション開始から6時間ほど経った状態で進捗率0.1%、完了までの推定時間は約6411時間…だいたい8〜9ヶ月ぐらいでしょうか…別のマシンでやり直さないとダメですね、これは。

(2005/2/1)
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